「うちは小さな店だから労働時間管理なんて関係ない」
そう考えている夫婦経営の飲食店オーナーの方、実は大きなリスクを抱えているかもしれません。
2024年4月、建設業や運送業など一部業種への時間外労働の上限規制適用が完了し、全業種で労働時間管理が厳格化されました。飲食業は既に2020年4月から対象でしたが、この社会的な動きを受けて労働基準監督署の監視も強化されています。
特に夫婦経営の飲食店では、日々の営業に追われ、従業員の労働時間管理が後回しになりがちです。しかし、労働基準法違反は「知らなかった」では済まされません。違反すれば6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
この記事でわかること
- 2024年4月から何が変わったのか
- 飲食店経営者が押さえるべき労働時間管理の8つの基本ルール
- 夫婦経営店が陥りやすい5つの落とし穴
- 今すぐ始められる実践的5ステップ対応策
- 分配率コントロールと労働時間管理の戦略的連携
2024年4月から何が変わった?時間外労働の上限規制を正しく理解する
飲食業は既に2020年から対象だった
まず誤解されやすいポイントを明確にしておきましょう。
飲食業は2024年4月から新たに規制対象になったわけではありません。
中小企業の場合、既に2020年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。
2024年4月の変更点は、これまで適用が5年間猶予されていた以下の業種にも規制が適用されるようになったことです
- 建設業
- 自動車運転業務(運送業)
- 医師
- 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
つまり、これで全業種への適用が完了し、社会全体で労働時間管理の重要性がさらに高まったということです。「他業種も規制されるようになったから、飲食業も改めて見直そう」という機運が高まっています。
時間外労働の上限規制:5つの重要ルール

働き方改革関連法により、時間外労働には以下の上限が設けられています。
これらを1つでも違反すると、労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
- ルール1:原則的な上限
月45時間・年360時間以内 - ルール2~5: 特別条項を締結した場合でも守るべき上限
ルール2:年720時間以内
ルール3:単月100時間未満(休日労働含む)
ルール4:2~6ヶ月平均80時間以内(休日労働含む)
ルール5:月45時間を超えられるのは年6ヶ月まで
⚠️ 注意すべきポイント
複数のルールを同時に守らなければならないという点です。
例えば、年720時間以内に収まっていても、ある月が100時間を超えていれば違反となります。
飲食業界における労働時間の実態
厚生労働省の「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業」(令和3年度)によると、飲食サービス業は他業種と比較して長時間労働が発生しやすい業種の1つです。
特に課題となるのが、以下の様な業種特性です。
- 開店準備・閉店作業を含めた長い拘束時間
- ランチ・ディナーの繁忙時間帯による労働の偏り
- 人手不足による一人当たりの負担増
- 深夜営業による深夜割増賃金の発生
これらの特性を理解した上で、適切な労働時間管理を行う必要があります。
📖 出典:厚生労働省「令和3年度 過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業」
飲食店ならではの労働時間管理の課題と解決策
課題1:雇用形態の多様性による管理の複雑さ
飲食店では、正社員、アルバイト、パート、派遣など、複数の雇用形態のスタッフが混在しています。
それぞれ契約労働時間が異なり、時給や給与計算方法も違うため、労働時間の集計が非常に複雑になります。
💡 解決策
勤怠管理システムを導入し、雇用形態ごとの設定を行うことで、自動的に正確な集計が可能になります。手作業での集計ミスを防ぎ、月末の集計業務を大幅に削減できます。
課題2:シフト制による労働時間の変動
曜日や時間帯によって必要な人数が大きく変わるため、シフト作成が複雑です。
さらに、急な欠勤や予想外の繁忙により、シフト変更が頻繁に発生します。
💡 解決策
変形労働時間制(後述)を活用することで、繁閑に応じた柔軟なシフト組みが可能になります。また、シフト管理機能を持つ勤怠システムを使えば、労働時間の上限を超えないようアラートを出すことができます。

関連記事:
シフト管理の詳細なテクニックについては
→ 【飲食店の損益分岐点を下げる!固定費削減の実践テクニック
の人件費最適化セクションもご参照ください。
課題3:打刻漏れ・不正打刻のリスク
タイムカードでの管理では、以下のようなリスクがあります。
- 打刻忘れによる記録漏れ
- 同僚による代理打刻
- 月末にまとめて記入する不正確な記録
- 店長不在時の管理の甘さ
💡 解決策
GPS機能付きのスマホ打刻や生体認証(指紋・静脈)による打刻システムを導入することで、不正打刻を防止できます。また、クラウド型のシステムなら、店長が不在でもリアルタイムで勤怠状況を確認できます。
課題4:深夜労働の割増賃金計算
22時から翌朝5時までの深夜労働には25%以上の割増賃金が必要です。
さらに、時間外労働と深夜労働が重なる場合は、割増率が加算されます(最低50%)。この計算を手作業に頼る方法で行うと、ミスが発生しやすくなります。
💡 解決策
勤怠管理システムで時間帯ごとの割増率を設定しておけば、自動的に正確な計算が行われます。給与計算ソフトと連携させれば、さらに効率的です。
夫婦経営店が陥りやすい「5つの落とし穴」
夫婦経営の飲食店は、大手チェーン店とは異なる独自の課題を抱えています。
善意で運営していても、知らず知らずのうちに法令違反になっているケースが少なくありません。
落とし穴1:「10人未満だから44時間までOK」の誤解
❌ よくある誤解
「うちは従業員10人未満だから、週44時間まで働かせられる」と考えている経営者がいます。
確かに、常時10人未満の飲食店では週44時間まで認められます。しかし、これには以下の注意点があります。
- 店舗単位での計算(会社全体ではない)
- 常時雇用する労働者の数(繁忙期だけのアルバイトは含まない)
- 1日8時間の上限は変わらない
- 44時間を超える場合は36協定が必要
落とし穴2:36協定を締結していない残業
❌ よくあるケース
「繁忙期だけだから」「本人も了承しているから」という理由で、36協定を締結せずに法定労働時間を超えて働かせている。
⚠️ リスク
36協定なしで法定労働時間を超えて労働させることは、労働基準法第32条違反となり、罰則の対象となります。割増賃金を支払っていても、違反は免れません。
✅ 正しい対応
法定労働時間を超える可能性が少しでもある場合は、必ず36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ましょう。届出は無料で、手続きも難しくありません。
落とし穴3:休憩時間の未付与・形だけの休憩
❌ よくあるケース
- ランチタイムが忙しくて休憩を取らせられない
- 「休憩中」と記録しているが、実際は待機している
- 分割して細切れの休憩を取らせている
◉ 法律の規定
- 労働時間が6時間を超える場合:45分以上
- 労働時間が8時間を超える場合:1時間以上
- 休憩は労働時間の途中に与える
- 休憩中は完全に労働から解放される必要がある
✅ 正しい対応
シフトを組む際に、休憩時間を確実に確保できる人員配置を心がけましょう。繁忙時間帯を避けて休憩を設定するなど、事前の計画が重要です。
落とし穴4:「経営者家族」との曖昧な関係
❌ よくあるケース
夫婦の親族や友人が手伝いに来ていて、雇用関係が曖昧なまま給与を支払っている。
⚠️ リスク
雇用関係がある以上、家族や友人であっても労働基準法は適用されます。労働時間の記録、36協定の締結、割増賃金の支払いなど、すべて必要です。
✅ 正しい対応
雇用契約書を作成し、労働条件を明確にしましょう。「家族だから」「友人だから」という理由で例外扱いはできません。
落とし穴5:アルバイトの労働時間を軽視
❌ よくある誤解
「アルバイトは短時間だから、労働時間管理は緩くても大丈夫」と考えている。
アルバイトでも、以下の点は正社員と同じです。
- 法定労働時間の適用(1日8時間・週40時間)
- 36協定の締結義務
- 割増賃金の支払い義務
- 休憩時間の付与義務
- 有給休暇の付与義務(一定の要件を満たした場合)
労働基準法で押さえるべき「8つの基本ルール」
前項で「落とし穴」として紹介した内容と一部重複しますが、労働時間管理を適切に行うため、最低限押さえておくべき法律のルールをここで改めて確認していきます。
ルール1:法定労働時間
原則:1日8時間・週40時間以内
飲食店の特例: 常時10人未満の飲食店では週44時間まで認められます。
- ただし、店舗単位での計算
- 会社全体の人数ではない
- 1日8時間の上限は変わらない
📖 出典:厚生労働省「労働時間・休日」
ルール2:36協定(サブロク協定)
法定労働時間を超えて労働させる場合、または法定休日に労働させる場合は、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
◉ 36協定で定める内容
- 時間外労働をさせる必要がある具体的事項
- 業務の種類
- 労働者の数
- 1日および1日を超える一定の期間について延長できる時間
- 労働させることができる休日
- 協定の有効期間
届出先:事業場の所在地を管轄する労働基準監督署
ルール3:休憩時間
- 労働時間が6時間を超える場合:45分以上
- 労働時間が8時間を超える場合:1時間以上
重要ポイント:
- 休憩は労働時間の途中に与える
- 休憩中は完全に労働から解放される
- 始業前や終業後は休憩ではない
ルール4:休日
法定休日: 週1回以上、または4週間に4日以上
◉ 法定休日と所定休日の違い
- 法定休日:労働基準法で定められた最低限の休日
- 所定休日:会社が独自に定めた休日(週休2日制の2日目など)
法定休日の労働には35%以上の割増賃金が必要ですが、所定休日の労働は時間外労働として25%以上となります。
ルール5:割増賃金
| 労働の種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働(法定労働時間超) | 25%以上 |
| 月60時間超の時間外労働 | 50%以上 |
| 休日労働(法定休日) | 35%以上 |
| 深夜労働(22時~5時) | 25%以上 |
| 時間外+深夜 | 50%以上 |
| 休日+深夜 | 60%以上 |
⚠️ 注意点: 中小企業への月60時間超の50%割増適用は2023年4月から。
ルール6:変形労働時間制
飲食店のように繁閑の差が激しい業種では、「変形労働時間制」が有効です。
◉ 1週間単位の非定型的変形労働時間制
- 対象:常時雇用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理・飲食店
- 内容:1週間の労働時間が平均40時間以内であれば、1日の労働時間を10時間まで延長可能
- 手続き:労使協定を締結し、労働基準監督署に届出
💡 メリット:
- 忙しい日は10時間、暇な日は6時間というように柔軟なシフト組みが可能
- 週平均40時間以内であれば、時間外労働扱いにならない
⚠️ 注意点:
- 1週間前にスケジュールを書面で通知する必要がある
- やむを得ない事情以外は変更不可
📖 出典:労働基準法(第32条の5参照)
ルール7:年少者(18歳未満)の労働制限
18歳未満の従業員については、以下の制限があります。
- 労働時間:1日8時間・週40時間まで(10人未満の特例は適用されない)
- 深夜労働(22時~5時)は禁止
- 時間外労働・休日労働は原則禁止(例外的に変形労働時間制は可能)
⚠️ 高校生アルバイトを雇用する際は、特に注意が必要です。
ルール8:労働時間の把握義務
2019年4月から、すべての労働者について、労働時間を客観的な方法で把握することが義務付けられています。
✅ 客観的な方法の例:
- タイムカード
- ICカード
- パソコンの使用時間の記録
- 勤怠管理システムの打刻記録
❌ 不適切な方法:
- 自己申告のみ(やむを得ない場合は可だが、実態との乖離をチェックする必要がある)
- 管理者の記憶
- 月末にまとめて記入
夫婦経営店のための「実践的5ステップ対応策」
理論はわかったけれど、実際にどう進めればいいのか?
ここでは、夫婦経営の小規模飲食店が今すぐ始められる具体的なステップを紹介します。
ステップ1:現状の「見える化」【最優先】
まずは従業員の実際の労働時間を正確に記録することから始めましょう。
◉ 具体的な方法
- タイムカードの見直し
打刻漏れがないかチェック
始業前・終業後の作業時間も記録しているか確認 - 1ヶ月間の労働時間を集計
従業員ごとの総労働時間
時間外労働時間
深夜労働時間
休日労働時間 - 問題点の洗い出し
月45時間を超えている従業員はいないか
休憩時間は適切に取れているか
連続勤務日数は7日を超えていないか
💡 この段階で使えるツール:
- Excel・PDFテンプレート(厚生労働省や労働局のサイトなどから賃金台帳ダウンロード可能)
- 無料の勤怠管理アプリ
- スマホのメモ機能(一時的な記録用)
ステップ2:36協定の締結と届出
◉ 36協定が必要なケース
- 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える可能性がある
- 法定休日に労働させる可能性がある
◉ 手続きの流れ
- 36協定様式のダウンロード
厚生労働省などのサイトから最新の様式をダウンロード - 労働者代表の選出
労働組合がない場合は、労働者の過半数代表者を選出
管理監督者でない従業員から、投票や挙手などの民主的な方法で選出 - 協定内容の決定
時間外労働をさせる具体的な理由(例:繁忙期対応、棚卸作業など)
対象となる業務の種類
対象となる労働者の数
延長できる時間(月・年単位) - 協定書の作成と署名
使用者と労働者代表が署名・押印 - 労働基準監督署への届出
事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出
窓口持参、郵送、または電子申請が可能
費用は無料
有効期間:一般的には1年間。毎年更新が必要です。
ステップ3:変形労働時間制の導入検討
◉ 導入を検討すべき店舗
- 平日と週末で忙しさが大きく異なる
- ランチ・ディナーの時間帯で必要人数が変わる
- 季節や月によって繁閑の差が激しい
◉ 1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入手順
- 要件の確認
常時雇用する労働者が30人未満か
小売業・旅館・料理・飲食店のいずれかに該当するか - 労使協定の締結
対象労働者の範囲
1週間の所定労働時間(40時間以内)
労働日ごとの労働時間
協定の有効期間 - 労働基準監督署への届出
- 就業規則への記載
10人以上の事業場の場合は就業規則への記載と届出も必要 - 運用ルールの徹底
1週間前にスケジュールを書面で通知
やむを得ない事情以外は変更しない
💡 活用例:
- 月曜~木曜(平日):7時間勤務
- 金曜~日曜(週末):9時間勤務
- 週合計:40時間
この場合、週末の9時間勤務は時間外労働扱いにならず、割増賃金も不要です。
変形労働時間制を活用すれば、忙しい日は10時間、暇な日は6時間というように柔軟なシフト組みが可能です。これにより人件費の固定費化を防ぎ、経営の安定性を高めることができます。

関連記事:
固定費と変動費の考え方については、
→ 【飲食店の損益分岐点を下げる!固定費削減の実践テクニック
で詳しく解説しています。
ステップ4:勤怠管理システムの導入
◉ 導入を検討すべきタイミング
- 従業員が5人以上いる
- 複数の雇用形態がある
- シフト変更が頻繁に発生する
- 月末の集計作業に半日以上かかっている
◉ 飲食店向け勤怠管理システムの選び方
1. 必須機能
- スマホ・タブレットでの打刻
- GPS機能(不正打刻防止)
- シフト管理機能
- 労働時間の自動集計
- 法令遵守チェック(上限規制アラート)
2. あると便利な機能
- 給与計算ソフトとの連携
- 複数店舗の一括管理
- ヘルプ勤務への対応
- 有給休暇管理
- クラウドストレージ
3. コスト
- 初期費用:0円~10万円程度
- 月額費用:1人あたり200円~500円程度
- 無料トライアル期間の有無
💡 導入のメリット:
- 月末の集計作業が数時間→数分に短縮
- 人的ミスの削減
- リアルタイムでの勤怠状況把握
- 法令違反リスクの低減
- 従業員の満足度向上
◉ おすすめのシステム例
- ジンジャー勤怠
- KING OF TIME
- スマレジ・タイムカード
- ジョブカン勤怠管理
ステップ5:「分配率コントロール」と労働時間管理の戦略的連携

夫婦経営の飲食店にとって、労働時間管理と人件費管理は表裏一体です。
ここでは、「分配率コントロール」を活用して、法令遵守と収益性を両立させる方法を解説します。
分配率コントロールとは?
一般的な「FL比率」は売上高を基準に食材費(Food cost)と人件費(Labor cost)を管理しますが、「分配率コントロール」は粗利益高(売上-食材費)を基準として管理する点が異なります。
◉ なぜ粗利益を基準にするのか?
- 食材費は売上に応じて変動するため、売上を基準にすると人件費の管理が不安定になる
- 粗利益は「人件費に分配できる原資」そのもの
- 粗利益内で人件費やその他経費を管理すれば、赤字を回避できる
◉ 粗利益高に対する各分配率の目安
売上 - 食材費 = 粗利益(100%)
|
├── 労働分配率:50~55%
├── 設備分配率:15~20%
├── 販促分配率:5~10%
├── 管理分配率:5~10%
└── 利潤分配率:10~15%
※ 上記は一般的な目安です。業種・業態特性により、お店・会社ごとの適正な分配率は変わります。
◉ 各分配率に含める経費内訳
- 労働分配率:人件費(給与・社会保険料等)
- 設備分配率:家賃・減価償却費等
- 販促分配率:広告宣伝費・販売促進費等
- 管理分配率:水道光熱費・消耗品費・通信費・その他経費等
- 利潤分配率:経営者利益・営業利益
労働時間管理との具体的な連携手順
ステップ1:現状の分配率を算出する
まず、自店の現状を数字で把握します。
【計算例】
月間売上:300万円
食材費:90万円(売上の30%)
人件費:125万円
粗利益:210万円(300万円-90万円)
⇒ 現在の労働分配率:125万円÷210万円=59.5%
この例では、粗利益の59.5%を人件費に使っています。一般的な適正範囲(50~55%)を超えており、このままでは経営者利益が十分に確保しづらく、長時間労働も発生しやすい状態であることが予想されます。
ステップ2:労働時間の内訳を可視化する
勤怠管理システムのデータから、時間帯別・業務別の労働時間を分析します。
【分析例】
ランチタイム(11:00~14:00):
- 売上:50万円/月
- 労働時間:180時間/月
- 人件費:20万円
- 粗利益:35万円(売上50万-食材15万)
- 労働分配率:20万÷35万=57.1%
ディナータイム(18:00~22:00):
- 売上:150万円/月
- 労働時間:320時間/月
- 人件費:65万円
- 粗利益:105万円(売上150万-食材45万)
- 労働分配率:65万÷105万=61.9%
この分析から、ランチタイムが57.1%(目安55%をやや超過)、ディナータイムが61.9%(目安を大きく超過)で、特にディナータイムの人件費過多が深刻であることが判明します。全体として労働分配率が高いため、シフトの見直しが必要であると思われます。
ステップ3:労働時間の上限内でシフトを最適化する

分配率コントロールの視点で、シフトを見直します。
◉ ディナータイムの改善案
【現状】
18:00~22:00 → 4名配置(キッチン2名、ホール2名)
準備・片付け含め実働5時間/人=20時間/日
月間:20時間×25日=500時間
月間人件費:65万円 ※時給1,300円として
【改善案】
18:00~22:00 → 3.5名配置
- キッチン1:17:30~22:30(5時間)
- キッチン2:18:00~22:00(4時間、メインのみ)
- ホール1 :17:30~22:30(5時間)
- ホール2 :18:30~22:00(3.5時間、ピーク時のみ)
合計:17.5時間/日
月間:17.5時間×25日=437.5時間
月間人件費:57万円
月間効果:
- 労働時間:62.5時間削減
- 人件費:8万円削減
- 労働分配率:57万÷105万=54.3%(適正範囲に改善)
重要なポイント:
- 月45時間の残業上限を守りながら調整
- ピーク時間に集中配置、準備・片付けは最小人数で対応
- サービス品質は維持しながら効率化
ステップ4:人時生産性で効率を測る

労働時間管理と収益性を同時に評価する指標が「人時生産性」です。
人時生産性 = 粗利益 ÷ 総労働時間
【改善前の例】
ランチタイム:
粗利益35万円÷180時間=1,944円/時間
ディナータイム:
粗利益105万円÷500時間=2,100円/時間
【改善後の例】
ディナータイム:
粗利益105万円 ÷ 437.5時間 = 2,400円/時間
◉ なぜ人時生産性を使うのか?
- 売上ではなく粗利益ベースで測定するため、食材費の変動に左右されない
- 従業員に分配できる「原資」を労働時間で割るため、本当の効率性がわかる
- 分配率コントロールと連動した指標として活用できる
◉ 目標設定とその根拠
- 最低ライン:2,500円/時間以上
- 適正値:3,000円/時間以上
◉ なぜこの水準が必要なのか?
令和7年の最低賃金改定で愛知県の最低賃金は1,140円となり、2026年1月時点における名古屋のアルバイト求人時給は1,150円以上が相場となっています。
📖 出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
労働分配率の適正値50~55%を前提に逆算すると
【必要な人時生産性の計算】
時給1,150円÷労働分配率50%=2,300円/時間
時給1,150円÷労働分配率55%=2,091円/時間
→ 最低でも2,000円/時間程度が必要
人時生産性が2,000円未満の場合、労働分配率を50~55%に抑えると時給1,000円~1,100円を下回ってしまい、”適正な利益を確保しながら” 相場並みの人件費をまかなうことが非常に難しくなります。
今後の人件費相場の上昇や安定した人材確保を考慮すると、3,000円/時間~3,500円/時間以上を実現するのが望ましいところです。
◉ 改善のアプローチ
この目標を達成するためには、2つの方向性があります。
- 労働時間を削減する(分母を減らす)
シフトの最適化
業務オペレーションの効率化
不要な待機時間の削減 - 粗利益を増やす(分子を増やす)
客数・客単価の向上
食材ロスの削減
仕入原価の改善
人時生産性が向上すれば、同じ労働時間でより多くの粗利益を生み出せるため、労働分配率を適正範囲内に保ちながら、従業員に適切な給与を支払うことが可能になります。

関連記事:
売上構造そのものの改善については、
→ 売上アップの鍵は「掛け算」!夫婦経営者が知っておくべき売上分解思考
もあわせてご覧ください。
ステップ5:月次でPDCAを回す
毎月、以下の数字を追いかけます。
◉ 月次チェック項目
- 粗利益額と粗利益率
- 労働分配率(目標:50~55%以内)
- 時間帯別の人時生産性
- 従業員別の総労働時間(月45時間超の有無)
- 残業時間の推移
- 休日取得状況
◉ 改善サイクル
- 数字で現状を把握
- 問題点を特定
- シフト調整案を作成
- 実行
- 翌月に効果を検証
分配率コントロール導入のメリット
1. 法令遵守と収益性の両立
- 労働時間を削減しても、適切な人員配置で売上は維持
- 人件費が適正化するため、経営者利益が増加
2. 客観的な経営判断
- 「忙しいから人を増やす」ではなく、「分配率から見て増やせるか」を判断
- 労働分配率が50%を下回っていれば人員増強の余地あり、55%を超えていれば効率化が必要
- 感覚ではなく、数字で意思決定
3. 従業員への説明責任
- なぜこのシフトなのか、数字で説明できる
- 残業削減の理由も明確になり、理解を得やすい
4. 継続的な改善
- 毎月の数字でPDCAを回せる
- 小さな改善の積み重ねが大きな成果に
当社のサポート内容紹介
当社では、分配率コントロールと労働時間管理の連携について、下記の手順で具体的にサポートしています。
サポート1:現状分析
- 貴店の財務データから分配率を算出
- 労働時間データとの突き合わせ
- 現場観察も交えた改善ポイントの特定
サポート2:目標設定
- 業態・立地に合わせた適正分配率の設定
- 段階的な改善計画の立案
- 労働時間削減と収益改善の両立プラン
サポート3:実行支援
- 月次でのフォローアップ
- シフト調整のアドバイス
- 数字の見方・改善策の提案
サポート4:システム活用
- 勤怠管理システムと会計データの連携方法
- 効率的なデータ分析の方法
- 経営ダッシュボードの構築
💡 まとめ:
労働時間管理を単なる「法令遵守」で終わらせず、「収益改善の機会」と捉えることが重要です。分配率コントロールと連携させることで、従業員を守りながら、経営も安定させることができます。
よくある質問(Q&A)
Q1:夫婦2人で経営している店ですが、アルバイトを1人雇っています。36協定は必要ですか?
A:
アルバイトが法定労働時間(1日8時間・週40時間、10人未満の店舗では週44時間)を超えて働く可能性が少しでもあれば、36協定の締結と届出が必要です。
「繁忙期だけ」「本人が了承している」という理由では免除されません。
Q2:勤怠管理システムの導入にはどのくらいコストがかかりますか?
A:
システムによって異なりますが、一般的な目安として下記のコストが必要です。
- 初期費用:0円~10万円
- 月額費用:1人あたり200円~500円程度
初期費用は必要となりますが、例えば従業員5人の店舗なら、月額1,000円~2,500円程度で導入できます。多くのシステムで無料トライアル期間があるので、まずは試してみることをお勧めします。
Q3:休憩時間中に「お客さんが来たら対応して」と言っていますが、問題ありますか?
A:
これは労働基準法違反です。
休憩時間は「完全に労働から解放される時間」でなければなりません。待機している時間は休憩ではなく、労働時間として扱い、賃金を支払う必要があります。
Q4:タイムカードがなくても、ノートに出勤時間を書いてもらえば大丈夫ですか?
A:
労働時間は「客観的な方法」で把握することが求められています。
自己申告のみでは不十分とされる可能性が高いです。最低限、タイムカードや勤怠管理アプリなど、改ざんしにくい方法で記録しましょう。加えて、手書きの記録による勤怠記録も避けるのが望ましいです。
Q5:繁忙期だけ月45時間を超えてしまいます。どうすればいいですか?
A:
36協定に「特別条項」を設けることで、年6ヶ月まで月45時間を超えることができます。
ただし、年720時間・月100時間未満・2~6ヶ月平均80時間以内という上限は守らなければなりません。恒常的に45時間を超える場合は、人員の増員やシフトの見直しを検討しましょう。
Q6:労働基準監督署の調査が入ったらどうなりますか?
A:
労働基準監督署の調査では、以下の書類の提出を求められることがあります。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿(タイムカードなど)
- 36協定届
- 就業規則(10人以上の場合)
違反が認められると「是正勧告書」が交付され、指定の日までに是正する必要があります。悪質な場合は書類送検されることもあります。日頃から適切な労働時間管理を心がけ、書類を整備しておくことが重要です。
まとめ:持続可能な飲食店経営のために
労働時間管理は、単なる法令遵守のためだけではありません。
従業員が健康で、やりがいを持って働ける環境を作ることが、結果としてお店の成長につながります。
今すぐできる3つのアクション
アクション1:現状チェック(今週中)
- 従業員の労働時間を1ヶ月分集計
- 月45時間を超えている人はいないか確認
- 36協定を締結しているか確認
アクション2:36協定の整備(今月中)
- 未締結の場合は至急締結
- 締結済みの場合は有効期限を確認
- 労働基準監督署に届出
アクション3:システム導入の検討(3ヶ月以内)
- 勤怠管理システムの無料トライアルを試す
- 自店に合ったシステムを選定
- 段階的に導入を進める
夫婦経営だからこそできること
- 従業員一人ひとりの状況をきめ細かく把握
- 柔軟なシフト調整
- アットホームな雰囲気の維持
これらの強みを活かしながら、適切な労働時間管理を実現することで、従業員との信頼関係を深め、長期的に繁栄する店を作ることができます。
分配率コントロールと労働時間管理の連携など、お店・会社の労働時間管理についてお悩みの方は、お気軽に当社へご相談ください。初回相談は無料です。
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この記事のポイント
- 飲食業は2020年から既に上限規制の対象(2024年から新たに対象になったわけではない)
- 夫婦経営店は労働時間管理が疎かになりやすく、法令違反リスクが高い
- 36協定未締結での残業は労働基準法違反で罰則の対象
- 変形労働時間制を活用すれば繁閑に応じた柔軟なシフトが可能
- 勤怠管理システムの導入で効率化と法令遵守を両立
- 分配率コントロールと労働時間管理の連携で持続可能な経営を実現
最後に
「小さな店だから関係ない」
ではなく、
「小さな店だからこそ、一人ひとりを大切にする」
そんな経営姿勢が、これからの時代に求められています。
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