はじめに |「値上げできない」が経営を圧迫している
「また仕入れ値が上がった…でも値上げしたらお客さんが来なくなるかも」
毎月の試算表を見るたびに、原価率の上昇に頭を抱えている飲食店経営者は少なくありません。
特に夫婦で切り盛りされているような小規模飲食店では、「常連さんの顔が浮かんで値上げを言い出せない」という声をよく耳にします。
しかし、値上げを先延ばしにした結果、気づいたときには「黒字なのに利益は小さくなってきて、現金も減少が続いている」といった状態に陥り、最終的には赤字転落や廃業などを余儀なくされるケースも珍しくありません。
2025年の飲食料品値上げは前年実績を64.6%上回る
帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食料品値上げは合計2万609品目に達し、前年実績を64.6%上回り、2023年以来、2年ぶりに2万品目を超えました。
食品分野別では調味料が6221品目と最も多かったほか、酒類・飲料は4901品目など、飲食店の仕入れに直結する多くの品目において、強い勢いで値上げが続きました。
参考:「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2025年12月/2026年
値上げ要因も多様化しており、2025年1-12月の品目数ベースでの要因比率を見ると「原材料高」96.1%のほか、2024年問題以後上昇が続く「物流費」が78.6%、最低賃金引き上げの影響を受ける「人件費」が50.3%など、複合的なコスト増に直面しています。
飲食料品の値上げは数年に渡って続いており、もはや「一時的な値上げ」が起こっている状況ではなく、「構造的なコスト増」への対応が求められる時代になったと言っても過言ではありません。
実は消費者の7割以上が値上げに理解を示している
「値上げ = 客離れ」と考えがちですが、実際のデータは違います。
株式会社ぐるなびが2022年6月に実施した「外食の値上げに関する調査」では、飲食店の値上げに対して72.6%もの消費者が一定の理解を示すという結果が出ています。
つまり、適切な方法で値上げを行えば、大半のお客様は受け入れてくれるということです。
問題は「値上げそのもの」ではなく、「値上げの方法」なのです。
本記事では、客離れを最小限に抑えながら粗利率を改善する方法を、愛知・名古屋を中心に小規模飲食店や夫婦経営飲食店などの経営支援に従事する当社の経験に基づき、5ステップで実践的に解説します。
値上げ前に必須!飲食店の利益構造を正しく理解する
「売上は増えたのに利益が残らない」の正体
多くの飲食店経営者が陥る罠があります。
それは、「売上」だけを見て経営判断をしてしまうことです。
税理士から受け取る試算表を見て「今月は目標通り売上300万円だった」などと一喜一憂するものの、「実際にいくら利益が残ったのか」「原価率は適正なのか」といった部分を正しく把握できていないケースが非常に多く見られます。
飲食店が押さえるべき3つの利益指標
飲食店の経営では、以下の3つの指標を正しく理解することが不可欠です。
1. 粗利益高(売上総利益)= 売上 - 食材原価
これは「食材を仕入れて調理した料理を提供した時点での儲け」です。
粗利益高 = 売上高 − 食材原価
粗利益率(%) = 粗利益高 ÷ 売上高 × 100
計算例
- 月間売上:200万円
- 食材原価:70万円
- 粗利益高:130万円
- 粗利益率:65%
2. 営業利益 = 粗利益高 - 経費(人件費・家賃・光熱費など)
粗利益高から、人件費・家賃・光熱費などすべての経費を引いた「本当の儲け」です。
営業利益 = 粗利益高 − (人件費 + 家賃 + 光熱費 + その他経費)
営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
計算例
- 粗利益高:130万円
- 人件費:60万円
- 家賃:20万円
- 光熱費:10万円
- その他経費:25万円
- 営業利益:15万円
- 営業利益率:7.5%
3. FLコスト = Food(食材費)+ Labor(人件費)
飲食店経営において、重視すべきとよく言われる指標が、FLコスト比率です。
業種・業態の特徴により一概には決まりませんが、一般的に適正なFLコスト比率は60%未満とされています。
FLコスト = 食材原価 + 人件費
FLコスト比率(%) = FLコスト ÷ 売上高 × 100
計算例
- 食材原価:70万円
- 人件費:60万円
- FLコスト:130万円
- FLコスト比率:65%
この場合、FLコスト比率が65%と適正値の60%を超えており、改善が必要な状態と判断されます。
業態別の平均粗利益率を知る
一般的に、飲食店の業態別粗利益率の目安は以下の通りとされています。
- 中華料理店:65〜70%
- そば・うどん店:65〜70%
- ラーメン店:65〜70%
- 居酒屋:60〜65%
- 日本料理店:60〜65%
- 食堂・レストラン:55〜60%
- すし店:55〜60%
(注):これらは一般的な目安であり、店舗の立地・業態・メニュー構成により変動します
自店の粗利益率がこの目安を大きく下回っている場合、値上げや原価管理の見直しを検討するのが望ましいと言えます。
「分配率コントロール」という考え方
ここで更に重要なのが、粗利益高を「限られたパイ」として捉える視点です。
一般的なFL比率管理では「売上」を基準に原価率・人件費率を管理しますが、「分配率コントロール」という経費管理手法では、粗利益高(売上-食材原価)を基準に、各経費と利益を管理します。
粗利益高 = 労働分配高 + 設備分配高 + 販促分配高 + 管理費分配高 + 利潤分配高
この考え方の利点は、粗利益高を超えて経費を使わないという制約を明確にすることで、赤字を防げる点にあります。
たとえば、粗利益高が130万円しかないのに、人件費60万円+家賃20万円+光熱費10万円+その他経費50万円=140万円を使ってしまえば、10万円の赤字になります。
値上げの目的は、単に「価格を上げる」ことではなく、「粗利益高という限られたパイを減らさない」ことなのです。
値上げが必要な「3つの危険信号」
以下のいずれかに該当する場合、値上げの検討が必要だと思われます。
危険信号1:原価率が40%を超えている
飲食店の原価率は25〜35%程度に収めるのが良いとされています。
もちろん業態の特徴にもよるため一概には申し上げられませんが、原価率が35%を超えてくると粗利益が圧迫されて、人件費や固定費などを賄えなくなるケースが多くなります。
危険信号2:営業利益率が3%未満
一般的に、飲食業界の営業利益率は5〜10%程度とされており、それを上回る10〜15%を目標とする店も多く見られます。
営業利益率が3%を下回る様な場合、十分な利益を稼げておらず、安定して長期間経営を続けていくことに不安を抱えている状態と言えます。
危険信号3:FLコスト比率が65%を超えている
FLコストが売上の65%を超えると、残りの35%で家賃・光熱費・その他経費・利益を賄わなければならず、経営が厳しくなることが多いです。
自己診断チェックリスト
- □ 原価率が35%以上
□ 営業利益率が5%未満
□ FLコスト比率が65%以上
□ ここ半年で仕入れ値が10%以上上昇した
□ 「黒字ではあるが現金が減っていく」状態が続いている
👉 2つ以上該当する場合、値上げの検討が必要だと思われます。

関連記事:
「黒字なのに現金が減る」状態が続いている方は、キャッシュフロー管理の見直しも併せて検討してください。
→ 黒字倒産しないための『キャッシュフロー管理』完全ガイド|夫婦経営の資金繰り改善術
ステップ1:データに基づいた値上げ幅の決定
値上げを成功させるための最初のステップは、感覚ではなくデータに基づいて適切な値上げ幅を決定することです。
現状の数値を「見える化」する
まず、以下のデータを最低3ヶ月分集計します:
必須データ
- 月間売上高
- 食材原価(仕入れ額の合計)
- 人件費(給与・賞与・法定福利費)
- 固定費(家賃・光熱費・消耗品費など)
- メニュー別の売上・原価・注文数
税理士から毎月受け取る試算表には、これらの数字が記載されています。しかし、多くの経営者がこの数字を「ただ眺めるだけ」で終わっているのが実状です。
この数字から「何が問題なのか」を読み取ること が重要であることを認識しましょう。

関連記事:
税理士から受け取る試算表を経営改善に活用するには、適切な質問が重要です。
→ 夫婦経営の飲食店|経営が変わる!税理士に聞くべき5つの質問
目標粗利率から逆算する値上げ幅
現状の粗利率と目標粗利率の差から、必要な値上げ幅を計算します。
計算手順
【現状】
- 月間売上:200万円
- 食材原価:80万円
- 粗利益高:120万円
- 現在の粗利益率:60%
- 現在の原価率:40%
【目標】
原価率を35%に改善したい
【計算】
目標売上 = 食材原価 ÷ 目標原価率
= 80万円 ÷ 0.35
= 約228万円
必要な売上増 = 228万円 − 200万円
= 28万円
必要な値上げ率 = 28万円 ÷ 200万円 × 100
= 14.0%
この例では、理論上14.0%の値上げが必要という計算になります。
しかし、一度に14.0%の値上げは現実的ではありません。客離れのリスクが高すぎるためです。
そこで、後述する「値上げ+原価削減のハイブリッド戦略」が有効になります。
客離れを防ぐ値上げ幅の「目安」
大手チェーン店の過去の値上げ事例などを参考にすると、以下のような目安が考えられます。
(注):あくまで目安であり、自店の状況・商圏・顧客層により適切な値上げ幅は異なります
目安1:1回の値上げ幅は「10%程度まで」を検討
過去に吉野家は牛丼並盛を39円値上げ(約10%)し、すき家・松屋も同時期、同様に10%前後の値上げを実施しました。
これは大手チェーンにおける事例であり、小規模店では常連客との関係性や商圏の競合状況によって、適切な値上げ幅が変わることは当然考えられます。
しかし、小規模店と比べ圧倒的に多くのお客様と接点を持つ大手チェーンの値上げ事例は、一定の参考材料として十分な価値があると思われます。
実際、10%を超える値上げは「高くなった」という印象を強く与える傾向があると業界内ではよく言われており、これに該当する値上げの実行には慎重な検討が必要です。
目安2:主力メニューは慎重に
看板メニューや人気メニューは、客離れに直結するため、値上げ幅をより慎重に設定します。
考え方の一例:
- 500円以下のメニュー:30〜50円
- 500〜1000円のメニュー:50〜80円
- 1000〜1500円のメニュー:80〜100円
(注):客単価などにより、値上げ幅の設定は変わります
目安3:大幅な値上げが必要な場合は段階的に
大幅な値上げが必要と判断される場合、一度に実施せず、段階的に行うことでリスクを分散できます。
段階的値上げの一例
第1段階(3ヶ月後):
- 一部メニューを7〜8%値上げ
- サイドメニュー・ドリンクを10%値上げ
第2段階(さらに6ヶ月後):
- 残りのメニューを7〜8%値上げ
ただし、段階的値上げは「また値上げか・・・」という印象を常連客に与えるデメリットもあるため、客数推移などの状況を見極めた慎重な判断が求められます。
「値上げ + 原価削減」のハイブリッド戦略
10.0%の単純値上げが必要と判断される場合
- 値上げにより6.5%の売上増を目差す
- 原価削減(ロス削減、仕入見直しなど)により食材原価3.5%削減を目差す
- 値上げと原価削減の合計によって目標を達成
大幅値上げが必要とされる場合には、全てを値上げで解決する方法を採るのではなく、原価削減策にも同時に着手することで、客離れのリスクを抑えながら目標を達成する方向へ進めることができます。

関連記事:
原価削減に向けては、まず適正在庫の把握と月末棚卸の効率化が必要です。
→ 飲食店の在庫管理で無駄ゼロ!月末棚卸を30分で終わらせる実践マニュアル
ステップ2:値上げするメニューの戦略的選定
「全メニュー 一律10%値上げ」は、最も避けるべき失敗パターンです。
全てのメニューを一律に一定比率で値上げする方法は、お客様に「全部高くなった」という印象を与え、客離れを招きやすくなります。
メニューを戦略的に分類し、値上げするメニュー・しないメニューを明確に区別することが重要です。
「粗利益高ABC分析」の活用

当社では、メニューを「獲得粗利益高の多さ」でランク分けする分析手法を、高い頻度で採用しています。
利益の源泉となる粗利益高を、どのメニューがどれだけ稼いでくれているのか可視化できる方法ですが、この分析手法を活用すると値上げするメニュー・しないメニューを区別しやすくなります。
ABCランクの定義
Aランク:
獲得粗利益高 上位75%を稼ぐメニュー
- 店の利益を支える主力メニュー
- 値上げは最も慎重に
Bランク:
獲得粗利益高 中位20%(75〜95%部分)のメニュー
- そこそこ売れるメニュー
- 値上げの第一候補
Cランク:
獲得粗利益高 下位5%(95~100%部分)のメニュー
- あまり売れないメニュー
- 値上げまたはメニュー削除を検討
具体的な分析手順
【Step1】メニュー別の粗利額を計算
| メニュー | 月間販売数 | 単価 | 原価 | 粗利/個 | 月間粗利額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日替わり定食 | 530個 | 800円 | 280円 | 520円 | 275,600円 |
| カツ丼 | 260個 | 900円 | 380円 | 520円 | 135,200円 |
| 唐揚げ定食 | 120個 | 850円 | 300円 | 550円 | 66,000円 |
| 生姜焼き定食 | 90個 | 850円 | 320円 | 530円 | 47,700円 |
| ラーメン | 60個 | 700円 | 220円 | 480円 | 28,800円 |
【Step2】粗利額の大きい順に並べ、累計粗利と累計比率を計算
| メニュー | 月間粗利額 | 累計粗利額 | 累計比率 | ランク |
|---|---|---|---|---|
| 日替わり定食 | 275,600円 | 275,600円 | 49.8% | A |
| カツ丼 | 135,200円 | 410,800円 | 74.2% | A |
| 唐揚げ定食 | 66,000円 | 476,800円 | 86.2% | B |
| 生姜焼き定食 | 47,700円 | 524,500円 | 94.8% | B |
| ラーメン | 28,800円 | 553,300円 | 100.0% | C |
この例では、下記の結果となります。
- Aランク → 日替わり定食、カツ丼(累計74.2%)
- Bランク→ 唐揚げ定食、生姜焼き定食(累計74.2〜94.8%)
- Cランク→ ラーメン(累計94.8〜100%)
値上げするメニュー・しないメニューの判断基準
値上げ推奨メニュー
① Bランク・Cランクのメニュー
- 粗利への貢献度が低いため、値上げしても影響が限定的
② 原価率が高いメニュー
- 利益率が低いため、優先的に値上げ
③ サイドメニュー・ドリンク類
- メインと比べ売価が低く、お客様の抵抗感が少なめ
- 注文が「ついで」のため、価格感度が低い
④ 競合より明らかに安いメニュー
- 値上げの余地がある
値上げを避ける・値上げ幅を小さくするメニュー
① Aランク上位の看板メニュー
- 粗利への貢献度が高く、客離れのリスクが大きい
- どうしても値上げする場合は最小限に
② 集客メニュー(マグネットメニュー)
- 「ワンコイン定食」など、新規客を集客するためのお値打ちメニュー
③ 原価率が適正で売れ筋のメニュー
- すでに適正な利益率を確保できている
価格構成の最適化:お客様が選びやすい価格設定
値上げのタイミングで、店全体の価格構成を見直して整理することも重要です。
価格の種類を工夫して整理整頓するだけで、お客様にとってメニューの選びやすさやお店の印象が大きく変わります。
ここでは、お店の価格構成がどうなっているのか、客観的に把握するのに役立つ法則や手法を紹介します。
お客様が選びやすい価格設定 3つの法則
法則1:価格の種類は3〜5種類に絞る
価格の選択肢が多すぎると、お客様は注文を迷いやすく、決めづらくなります。
【😵 わかりにくい例】
- 日替わり定食 680円
- 生姜焼き定食 720円
- 唐揚げ定食 780円
- カツ丼 830円
- 天丼 870円
- 特選定食 920円
→ 40〜50円刻みでメニュー毎に価格が異なり、全部で6種類。「どれが自分に合うのか」判断しにくい
【😄 わかりやすい例】
- 日替わり定食、生姜焼き定食 700円
- 唐揚げ定食、カツ丼 800円
- 天丼、特選定食 900円
→ 3つの価格で明確。比較対象の価格が絞られているので「今日は奮発して特選定食にしよう」などと選びやすい
法則2:最安値と最高値の差を適正にする
お客様にとって、購入するメニュー・商品の「利用目的・利用シーン」や「求める価値・バリュー」は、価格帯によって自然と決まっています。
600円のメニューは「手軽さ」や「安さ」、「早さ」などを優先したいときに注文するメニューだと思いますし、5,000円のメニューは「接待用」「自分へのご褒美」「満足感」などを求める時のメニューであるはずです。
多くの方が、大切な方への接待目的で600円のメニューをご馳走しないでしょうし、5,000円のメニューに何よりも優先して手軽さを求めることはほとんどないと思います。
「価格」と「利用目的」が密接に関係していることをふまえると、特別な目的や利便性を有することなく「安いものから高いものまで幅広く揃えているお店」は、お客様から見ると「利用目的や使い方がわかりづらいお店」という印象を受けることに繋がってしまいます。
お店に揃うメニュー価格の幅が広すぎると、「この店はいくら位で食べられるお店なんだろう?」とお客様が混乱し、どんな時に使いやすいお店なのかがぼやける結果、お客様にとって利用しにくいお店となってしまうのです。
【価格イメージが不明確】
- ランチ:500円〜1800円(差1,300円)
→ 「安い店?高い店?どっち?」
【価格イメージが明確】
- 大衆店なら:590円〜890円(差300円)
→ 「手頃な価格の店」と明確。週1回以上、ランチなどで利用したい。 - 中級店なら:1200円〜1800円(差600円)
→ 「ちょっと良い店」と明確。月に1~2回程度、落ち着いて良いものを食べたいとき。
法則3:最高価格が店の「高さの印象」を決める
実は、メニューの中で最も高い商品の価格によって、その店全体の「高さの印象」を決めています。
お客様がそのお店に抱く「格」と表現できるイメージと言えるかもしれません。
例えば、無意識に以下の様な印象をもって、お店を選んでいるのです。
- メニューの最高価格が1,000円未満
→ 「手頃な大衆店」 - メニューの最高価格が2,000円程度
→ 「ちょっと良い定食屋」 - メニューの最高価格が3,000円以上
→ 「準高級店」「高級店」
🚨 ポイント:
この最高価格メニューがあまり売れていない場合、値上げではなく値下げの検討が望ましい可能性があります。お客様の多くが注文しないメニューを中心価格帯から離れた最高価格で並べているだけで、お客様へ不用意にお店に対する「割高感」を与えてしまうことがあります。
「商品構成グラフ」で自店の価格を見える化する

メニューの価格構成を視覚的に理解するためには、「商品構成グラフ」を作成するのも有効です。
商品構成グラフとは
横軸に価格、縦軸にメニューの種類数を取り、どの価格帯にメニューが集中しているかを表したグラフです。お店や会社が、ある特定のカテゴリーで「どの価格帯の商品」を「どのように販売」しようとしているのかという商品政策を、視覚的に表せるのが特徴です。
【商品構成グラフの例】

このグラフの見方
各価格に以下の数のメニューが揃えられていることを意味しています。
Excelやスプレッドシートで作成する場合は、横軸に価格、縦軸にメニュー数を取った折れ線グラフを作成してください。視覚的に「山型」になっているかが一目で確認できます。
- 590円:1種類
- 680円:2種類
- 780円:3種類
- 850円:4種類 ← メニューが最も多い
- 880円:1種類
- 920円:1種類
○ 理想的な形
- お客様が買いたい価格にメニューが集中している「山型」
- 最高値の位置が同業競合店より左(安い)
- 山の頂点が同業競合店より左で(安くて)、高い(メニューが多い)
- グラフの横幅が狭い
- 価格の種類が3〜5つ程度
✕ 避けるべき形:
- メニュー数が各価格帯に均等に分散(平坦な形で山がない)
- 最高値の位置が同業競合店より右(高い)
- グラフの横幅が広い
- 価格の種類が7つ以上(複雑すぎる)
商品構成グラフと実際の売れ筋を比較する
ここで更に重要な分析を行いましょう。
商品構成グラフ(メニューの種類数)と、実際に売れている価格帯を比較してください。
【例:危険なズレがあるケース】
■ 商品構成グラフ(メニューの種類数)

■ 実際の販売数量

このズレが示すもの:
| 価格帯 | メニュー数 | 月間販売数 | 1品あたり販売数 |
|---|---|---|---|
| 680円 | 1種類 | 400食 | 400食/品 |
| 780円 | 2種類 | 200食 | 100食/品 |
| 850円 | 3種類 | 100食 | 33食/品 |
| 880円 | 4種類 | 80食 | 20食/品 |
| 1,000円 | 3種類 | 60食 | 20食/品 |
これは「商品政策がお客様のニーズとミスマッチを起こしている」シグナルです。
問題1:努力の方向が間違っている
- 店側:850〜1,000円に多くのメニューを開発(労力とコストをかけている)
- 結果:どれもあまり売れない(1品あたり月30食程度)
- 無駄:メニュー開発・仕込み・在庫管理のコストが充分に回収できない
問題2:お客様の期待を理解していない
- お客様の認識:「この店は680円で満腹になる店」
- 店側の認識:「880円のメニューが充実している店」
- 認識のズレ:お客様は「680円のメニューが1つしかない」と不満
問題3:売りたいものが売れていない
- 原価率が低く利益率の高い880円商品を売りたい
- でもお客様は680円商品を求めている
- 結果:お客様の人気を充分に得られず、思うように利益も残らない
このズレを解消する2つの戦術
戦術①:よく売れる価格(680円)にメニューを集中させる
お客様が求めているのは「欲しい価格である680円の中で選択肢がある」ことです。
今の原価でどれだけ対応できるのか充分な検討が当然必要ですが、最もシンプルな対策は欲しい価格に多くのメニューを揃えることです。
<改善前>
680円 – 日替わり定食(1種類のみ)
880円 – 生姜焼き、カツ、チキン南蛮、ハンバーグ(4種類)
<改善後>
680円 – 日替わり、唐揚げ、生姜焼き、ミックスフライ(4種類)← 充実
880円 – 特選定食、海鮮丼(2種類)← 絞込
この改善の効果:
- よく売れる680円の選択肢が増え、お客様満足度UP
- あまり売れない880円メニューを減らし、オペレーション簡素化
- 商品構成グラフと販売実績が一致し、お客様の期待に応えられる価格構成になる
少し極端で、値上げを要する背景も度外視した原則に最も近い戦術を述べました。
現状が苦しく値上げを必要としている中で、安い価格に揃えることを推奨するものではもちろんありません。
ここで、値上げ前に抑えていただきたいのは、メニュー価格を決める際に、「お客が欲しいと思っている価格帯」を事前に客観的に知っておくことの重要性です。
事前にこの事実を把握していれば、850円~1,000円に集中していたメニュー構成について、値上げも含めながら780円から880円のメニューをできるだけ多くできるように、など検討され、「全品一定率での値上げ」といった方法とは全く異なる、お客の深層心理をも汲み取った戦術を採れる様になるはずです。
戦略②:売りたい価格で人気を得られる様、商品・お店をアップデートする
お店側が売りたい価格であまり売れていない状況の場合、残念ながらお客様の期待にそれらの商品、もしくはお店が充分に応えられていないことが原因である可能性が高いと思われます。
周辺競合店で販売されている同価格帯の商品に対して、自分のお店の商品がボリュームや品質などの魅力度で負けていたり、その価格帯に見合ったクリンリネスやサービスが実現されていなかったり、といったことが考えられます。
【改善案の手順】
第1段階:売れているお店を参考に、自店舗の改善策を検討
- 同じ価格帯のメニューが売れているお店を現地調査。(実際にお客としてお店に行く)
- 提供メニュー・価格構成の確認、売れているメニューの実食、提供サービス等について目視確認
- 自店との違い(お客様が良いと思う要素)を洗い出し、「何故それをしているのか?」推測。再調査のうえ、推測内容を事実として確認。
- その要素を取り入れた改善策を立案する。
第2段階:商品・お店の魅力を高める改善に取り組む
- 調査結果を反映した、商品の改善・改良(質・量の見直し、試作・試食の繰り返し)
◆ 材料・量目・品数などの変更
◆ 仕込み方法・調理方法・調理手順・調理道具などの改善
◆ 盛り付け方法・器などの見直し - クリンリネスやサービスの改善(声かけだけで終わらない、行動に移せる対策)
◆ 席案内から商品提供、退店時の精算作業などの速度UP
◆ 清掃頻度・清掃箇所・清掃方法・清掃道具などの見直し
◆ メニューブックやメニューボードの見やすさ改善
【重要】値上げ前にズレを解消する
値上げを実施する前に、このズレ解消のための取組みをしておくことが非常に重要です。
ズレを放置したり黙認したまま値上げすると:
- 売れない高価格メニューをさらに値上げ → ますます売れない
- よく売れていた価格メニューを単純値上げ → 客離れのリスク大
- 結果:値上げ失敗
ズレを解消してから値上げすると:
- メニュー構成が整理され、お客様が選びやすくなる
- よく売れる価格が明確になり、値上げの影響を予測しやすい
- 結果:値上げ成功の確率が高まる
推奨フロー:
- 商品構成グラフを作成
- 販売実績と比較してズレを発見
- メニュー構成や商品内容を見直し、ズレを解消
- その上で戦略的に値上げ実施
値上げで「高い店」と思われないための価格戦略

多くの店が値上げで失敗する理由は、「全体的に高くなった」とお客様に感じさせてしまうことです。
これを防ぐには、最高価格は据え置いたまま、利益率の低い商品だけを値上げするのが、効果的な方法の一つです。
実践例:最高価格維持の値上げ戦略
【値上げ前の価格構成とABC分析】
- 日替わり定食:680円(Aランク・原価率35%・よく売れる)
- 唐揚げ定食:780円(Aランク・原価率30%・よく売れる)
- カツ丼:850円(Bランク・原価率40%・そこそこ売れる)
- 生姜焼き定食:880円(Bランク・原価率38%・そこそこ売れる)
- 天丼:920円(Cランク・原価率42%・あまり売れない)
- ★ 最高価格:920円
問題点:
- 天丼:原価率42%と高く最高価格920円であまり売れていない
- カツ丼・生姜焼き:原価率38〜40%とやや高い
- 価格が5種類でやや多い
【値上げ後の価格構成(推奨パターン)】
戦略:最高価格920円は維持し、原価率の高いB・C商品のみ値上げ
- 日替わり定食:680円(据え置き・Aランク看板メニュー)
- 唐揚げ定食:780円(据え置き・Aランク人気メニュー)
- カツ丼:850円 → 920円(+70円・8.2%値上げ・原価率40%)
- 生姜焼き定食:880円 → 920円(+40円・4.5%値上げ・原価率38%)
- 天丼:920円(据え置き・最高価格維持)
→ 価格を3種類(680円/780円/920円)に集約
この戦略の5つのメリット
メリット1:「高くなった」と感じにくい
- 最高価格920円が変わらないため、「値上げした」印象が弱い
- お客様は最高価格で店の高さを判断するため、据え置き効果が大きい
メリット2:看板メニューは守る
- 日替わり定食680円・唐揚げ定食780円は据え置き
- 「いつもの定食は変わらない安心感」を提供
メリット3:価格が整理されて選びやすくなる
- 5種類 → 3種類に集約
- 「680円の安い方」「780円の真ん中」「920円のちょっと良い方」と明確
メリット4:原価率の高い商品だけを改善
- カツ丼・生姜焼き:原価率38〜40% → 値上げで32〜35%に改善
- 粗利額が大幅にアップ
メリット5:天丼が従前よりお得に見える
- 値上げ前:天丼920円は「一番高い」
- 値上げ後:カツ丼・生姜焼きも920円 → 天丼が「同じ価格でエビ天付き」とお得に感じられる
上記例の価格改定表
| メニュー | 改定前 | 改定後 | 変化 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 日替わり定食 | 680円 | 680円 | 据え置き | Aランク看板・集客の要 |
| 唐揚げ定食 | 780円 | 780円 | 据え置き | Aランク人気・原価率30%で適正 |
| カツ丼 | 850円 | 920円 | +70円 | Bランク・原価率40%と高い |
| 生姜焼き定食 | 880円 | 920円 | +40円 | Bランク・原価率38%と高い |
| 天丼 | 920円 | 920円 | 据え置き | 最高価格維持で「高い店」印象回避 |
価格設定のチェックリスト
値上げ時の価格設定で確認すべきポイント
◉ 価格の幅(最安値〜最高値)
- □ 最安値と最高値の差は適正か?(最高値は最安値の2倍以下が理想)
- □ 最安値を上げる場合、お客様の人気に影響はでないか?
- □ 最高値を上げる場合、品質面での対応ができるか?
◉ 価格の種類
- □ 価格の種類は3〜5つに絞られているか?
- □ 近い価格を統合したか?
- □ キリの良い数字に揃えたか?
◉ よく売れる価格
- □ 現在最もよく売れている価格を把握しているか?
- □ よく売れる商品は据え置きまたは小幅値上げか?
- □ よく売れる価格を動かす場合、付加価値を高めたか?
◉ メニュー構成とのズレ
- □ 商品構成グラフと実際の売れ筋を比較したか?
- □ ズレがある場合、メニュー構成など見直したか?
これらの項目をクリアすることで、客離れを最小限に抑えた戦略的な値上げが実現できる可能性が高まります。
前編のまとめ | 値上げの「準備」が成功を左右する
ここまで、値上げを成功させるための「準備」と「戦略立案」の2つのステップについて解説してきました。
前編で学んだ重要ポイント
ポイント1:利益構造の正しい理解
- 粗利益高・営業利益・FLコストの3つの指標を理解する
- 「分配率コントロール」の考え方で、粗利益高を限られたパイとして捉える
- 値上げが必要な3つの危険信号(原価率40%超、営業利益率3%未満、FLコスト比率65%超)を認識する
ポイント2:データに基づいた値上げ幅の決定
- 目標粗利益率から逆算して必要な値上げ幅を計算する
- 客離れを防ぐ値上げ幅の目安は10%程度まで
- 大幅な改善が必要な場合は「値上げ+原価削減」のハイブリッド戦略を採用する
ポイント3:戦略的なメニュー選定と価格構成の最適化
- ABC分析で粗利益高を基準にメニューをランク付けする
- Aランク看板メニューは据え置き or 小幅値上げ、B・Cランクは積極的に値上げ
- 価格の種類は3〜5種類に絞り、お客様が選びやすくする
- 商品構成グラフで「店が売りたい価格」と「お客様が買いたい価格」のズレを解消する
- 最高価格を据え置いたまま中間価格を調整することで、「高くなった」印象を抑える
「準備なき値上げ」が招く3つの失敗
多くの飲食店が値上げで失敗する理由は、「とりあえず全品10%値上げ」のような、準備不足の値上げを実施してしまうことです。
失敗パターン1:全メニュー一律値上げ
- お客様に「全部高くなった」という印象を与える
- 看板メニューまで値上げして常連客が離れる
- 結果:客数減少が止まらず、売上も利益も悪化
失敗パターン2:値上げ幅の設定ミス
- データに基づかず「なんとなく50円上げる」
- 値上げ幅が小さすぎて粗利益率が改善しない、または大きすぎて客離れを招く
- 結果:値上げの効果が得られず、再値上げが必要になり信用を失う
失敗パターン3:価格構成のズレを放置
- お客様が欲しい価格帯を把握せずに値上げ
- 売れないメニューをさらに高くして、ますます売れなくなる
- 結果:メニュー構成が崩れ、お客様が「何を食べたらいいかわからない店」になる
これらの失敗を避けるために、前編で解説した「準備」と「戦略立案」が不可欠なのです。

関連記事:
値上げは、開業3年目の壁を越えて10年続く店になるための重要な経営判断の一つです。
→ 飲食店開業3年目の壁を越える!10年続く店になるための経営改善5ステップ
【次回予告】後編で解説する「実行とフォローアップ」
値上げの戦略が固まったら、次は「実行」です。
どれだけ完璧な値上げ戦略を立てても、「実行方法」を間違えれば客離れを招きます。
逆に、実行とフォローアップを丁寧に行えば、値上げ後もお客様との良好な関係を維持しながら、確実に粗利益率を改善できます。
後編では、以下の3つのステップを詳しく解説します:
ステップ3:付加価値を高めて納得感を醸成する
- 値上げを「品質向上の証」として伝える4つの方向性
- 付加価値を「見える化」する5つのテクニック
- お客様に「お得になった」と感じてもらう具体策
ステップ4:客離れを防ぐ値上げの告知方法
- 告知のゴールデンタイミング「1ヶ月前」が最適な理由
- 実際に使える告知文テンプレート(店内ポスター版・Web版)
- 複数チャネルで「見逃し」を防ぐ告知戦略
- 値上げ告知に必須の「3つの要素」(理由・使途・感謝)
ステップ5:値上げ後のフォローアップで客離れを防ぐ
- 最重要顧客「常連客」への4つの特別ケア施策
- 値上げ後3ヶ月間のモニタリング必須項目
- 客数減少時の緊急リカバリープラン
- 値上げ成功の判断基準(客数・客単価・売上・粗利益率)
さらに後編では、値上げと併せて実施すべき「コスト削減策」も詳しく解説します:
- 食材原価削減:仕入れ先見直し、食材ロス削減、メニュー最適化
- 人件費適正化:シフト管理最適化、業務効率化、セルフサービス導入
- 光熱費削減:LED照明、運用改善、契約プラン見直し

関連記事:
【後編】はこちらで解説しています。
→ 【後編】飲食店の「値上げ」を成功させる実践方法|告知から3ヶ月フォローアップまで完全ガイド
値上げ戦略の立案でお困りの方へ
「自店の粗利益率を正確に分析したい」
「ABC分析でメニューをランク分けしたい」
「適切な値上げ幅をシミュレーションしたい」
当社では、税理士が作成した試算表などを元に、
- 粗利益率・原価率の分析
- メニュー別ABC分析
- 値上げシミュレーション
- 分配率コントロールによる経費管理
など、飲食店の経営数値を「使える形」に変換し、具体的な改善策をご提案しています。
初回相談は無料です。
試算表や簡単な売上データをお持ちいただければ、その場で粗利益率分析と改善提案をさせていただきます。
持続可能な飲食店経営のために、まずは現状を「見える化」することから始めましょう。
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