はじめに|値上げの「実行」が成否を分ける
前編では、値上げを成功させるための「準備」と「戦略立案」について、以下のポイントを解説しました。
- 利益構造の理解(粗利益高・営業利益・FLコスト)
- データに基づいた値上げ幅の決定
- ABC分析による戦略的メニュー選定
- 価格構成の最適化

関連記事:
【前編】をまだお読みでない方は、こちらをご覧ください。
→ 【前編】飲食店の「値上げ」を成功させる準備と戦術|データ分析とメニュー選定の実践法
しかし、どれだけ完璧な戦略を立てても、「実行方法」を間違えれば客離れを招きます。
この後編では、飲食店の値上げを実際に実行する際の具体的な手順と、値上げ後のフォローアップについて詳しく解説します。
【補足】今すぐ値上げすべき3つのサイン
以下のいずれかに該当する場合、値上げの検討が必要です。
- サイン1:原価率が3ヶ月連続で上昇している
例: 38% → 39% → 40%と継続的に悪化している場合、構造的なコスト増への対応が必要です。 - サイン2:営業利益率が5%を下回った
利益が出ていても、将来投資や緊急時対応が困難な水準です。持続可能な経営には最低5%の営業利益率が必要です。 - サイン3:仕入れ価格が10%以上上昇した
主要食材(肉・魚・米など)の仕入れ単価が大幅アップした場合、値上げなしでは原価率が悪化し続けます。
いずれかに該当する場合は、本記事のステップに沿って、計画的に値上げを実施しましょう。
ステップ3:値上げの納得感を高める付加価値向上策

飲食店の値上げを成功させる最大のポイントは、「値上げ=品質向上」とお客様に感じていただくことです。
ただ価格を上げるだけでは、お客様は「高くなった」という不満しか感じません。値上げと同時に、何らかの付加価値を提供することで、納得感を醸成することが重要です。
❌ よくある失敗例
「値上げだけして提供価値向上なし」
ある定食屋では、850円のメニューを920円に値上げしましたが、食材の質やサービスは一切変えませんでした。その結果、常連客から「ただ高くなっただけ」と不満が噴出。値上げ後1ヶ月で客数が15%減少し、売上も8%減少してしまいました。
教訓: 値上げと同時に、お客様が「納得できる変化」を提供することが不可欠です。
値上げを「品質向上の証」として伝える4つの方向性
方向性1:食材の質を向上させる
最も直接的でわかりやすい付加価値の向上方法です。
具体例:
- 国産鶏肉から銘柄鶏へ変更
- 冷凍野菜から地元産の旬野菜へ
- ブレンド米から産地指定米へ
- 化学調味料不使用の出汁への変更
方向性2:ボリュームや品数を増やす
食材の質を大きく変えられない場合でも、量や品数で満足度を高められます。
具体例:
- サラダバーの追加
- 小鉢を1品から2品へ増量
- ご飯のおかわり無料サービス
- メイン料理の盛り付け量10%増
方向性3:サービスレベルを向上させる
食材以外の部分で、お客様の満足度を高める施策です。
具体例:
- 食後のコーヒーサービス
- 待ち時間のお茶・漬物サービス
- テーブル清掃・除菌の徹底
- BGMや照明の改善で居心地向上
方向性4:新メニューの開発・追加
値上げのタイミングで新しい選択肢を提供することで、「進化している店」という印象を与えます。
具体例:
- 季節限定・期間限定メニューの投入
- 新しい価格帯の特選メニュー追加
- ヘルシーメニュー・アレルギー対応メニューの開発
値上げ時こそ差別化のチャンス
競合店も同様に値上げせざるを得ない状況だからこそ、あなたの店の独自性をアピールする絶好の機会です。
「うちは値上げしたけど、こんなに良くなりました」と具体的に示すことで、競合との差別化が図れます。他店が単に価格を上げるだけの中、付加価値を高めた店舗が顧客の支持を集めるのです。
付加価値を「見える化」する5つのテクニック
付加価値を高めても、それがお客様に伝わらなければ意味がありません。
改善内容を効果的に伝えるテクニックをいくつか紹介します。
テクニック1:メニュー表に産地・銘柄を明記
材料の品質の良さをわかりやすくお客様に知ってもらうため、メニュー表に産地や銘柄などをきちんと掲載し、PRしましょう。
また、お客様にとって魅力に映る商品の特徴やキャッチコピーを載せるのも有効です。
例えば唐揚げ定食なら、
「生姜醤油香る・・・」「塩麹で柔らかく仕上げた・・・」「白飯、加速。」
といったこだわりや、お客様の食欲に訴えるようなひと言などを盛り込むと、その商品の魅力を引き立てることができます。
例:
- 「鶏の唐揚げ定食」→「大山どりの唐揚げ定食(鳥取県産銘柄鶏使用)」
- 「天丼」→「三河湾産 活〆天然車海老の天丼」
テクニック2:店内POPで訴求
メニュー表への掲載だけでなく、来店客の目に留まるよう店内POPやポスターなどで、商品のバージョンアップ内容を訴求する方法も効果的です。
例:
「この度、より良い食材でご提供するため、国産鶏肉から鳥取県産大山どりへグレードアップいたしました。旨みと弾力が違います!」
テクニック3:スタッフによる口頭説明
店内POPを貼る場所に乏しかったり、作成が難しい場合には、接客時にPRする方法を検討してみましょう。
例:
「今月から、より美味しくお召し上がりいただけるよう、お米を新潟県魚沼産コシヒカリに変更いたしました。ぜひご賞味ください」
テクニック4:SNS・ホームページで発信
SNSやホームページを公開しているお店では、積極的にPRポイントを発信し、お店の取組みをアピールします。
例(Instagram投稿):
「【新メニュー登場】地元愛知県産の朝採れ野菜をたっぷり使った『農園サラダ定食』が新登場!新鮮な野菜の甘みと食感をお楽しみください🥗✨ #地産地消 #朝採れ野菜」
テクニック5:ビフォーアフターの比較
アピールの際には、以前との違いを比較する形で表現すると、バージョンアップ内容がお客様にわかりやすく伝わります。
例(店内掲示):
| 項目 | 以前 | 現在 |
|---|---|---|
| お米 | ブレンド米 | 新潟県魚沼産コシヒカリ |
| 鶏肉 | 国産鶏 | 鳥取県産大山どり |
| 野菜 | 冷凍野菜 | 愛知県産朝採れ野菜 |
お客様に「お得になった」と感じてもらう具体策
値上げをしながら、お客様に「お得感」を感じていただく方法もあります。
策1:セットメニュー・バリューセットの導入
個別注文より割安なセットを用意することで、お得感を演出できます。
例:
- ランチセット:定食+ドリンク+デザート = 通常1,200円 → セット価格1,000円
- ファミリーセット:メイン3品+サラダ+ライス3杯 = 通常3,500円 → セット価格3,000円
策2:ポイントカード・スタンプカードの導入
来店頻度の高い常連客にメリットを感じていただける施策です。
例:
- 10回来店でランチ1回無料
- 購入金額の5%をポイント還元
策3:日替わり・週替わり特別メニュー
定期的に「今日だけのお得」を提供することで、来店のきっかけを作ります。
例:
- 「火曜日限定:唐揚げ定食 50円引き」
- 「週替わりサービスランチ:今週は生姜焼き定食が680円!」
ステップ4:客離れを防ぐ値上げ告知の最適タイミングと方法

飲食店の値上げ告知方法を間違えると、どれだけ良い戦略でも失敗します。
適切なタイミングで、適切な方法でお知らせすることが、客離れを防ぐ重要なポイントです。
❌ よくある失敗例
「1週間前の急な告知で客離れ加速」
ある居酒屋では、値上げの1週間前に店内にポスターを掲示しただけで告知を済ませました。
常連客は「急すぎる」「誠意が感じられない」と反発し、値上げ後2週間で客数が20%減少。
特に週3回来店していた常連グループが来なくなり、売上が大きく落ち込みました。
教訓:値上げ告知は最低でも1ヶ月前から。十分な準備期間を設けることで、お客様の理解と納得を得られます。
告知のゴールデンタイミング「1ヶ月前」が最適な理由
飲食店の値上げ告知は、実施の1ヶ月前がベストタイミングです。
理由:
- お客様が心の準備をする時間が十分にある
- 月1回程度の来店頻度というお店は多く、週1回の常連客なら告知を3〜4回見る機会がある
- 「急すぎる」「誠意がない」という印象を避けられる
- 値上げ前の「駆け込み需要」で売上増がいくらか期待できる
逆に避けるべきタイミング:
- 1週間前〜直前:「急すぎる」「誠意がない」と感じられる
- 2ヶ月以上前:告知から実施まで期間が空きすぎて忘れられる
30日間の詳細スケジュール

値上げ告知から実施までの1ヶ月間を、以下のように段階的に進めます。
第1週(30日前〜23日前):初回告知
- 店内の目立つ場所にA3ポスター掲示
- 各テーブルに卓上POPを設置
- ホームページ・SNSで告知開始
- 常連客には会計時に口頭で簡単に説明
第2週(22日前〜16日前):認知拡大
- メニューブックに告知シールを貼付
- LINE公式アカウント・メルマガで配信
- 入り口の看板にも告知追加
- SNSで付加価値向上の具体例を投稿(新食材・サービス改善など)
第3週(15日前〜9日前):感謝の訴求
- 「値上げ前ラストチャンス」の告知追加
- 常連客への感謝メッセージを店内掲示
- 改善内容の詳細を写真付きでSNS投稿
- 会計時に全員に口頭で説明開始
第4週(8日前〜実施前日):最終確認
- 「あと〇日で値上げ」のカウントダウン掲示
- 新価格のメニューブック準備完了
- スタッフ全員に説明マニュアル共有
- 値上げ実施日の前日にSNSで最終告知
値上げ告知に必須の「3つの要素」
告知文には、必ず以下の3つの要素を盛り込みましょう。
要素1:値上げの理由
なぜ値上げするのか、誠実に説明します。
良い例:
- 「食材価格の高騰により」
- 「より良い食材を使用するため」
- 「人件費・光熱費の上昇に伴い」
要素2:値上げ分の使途(付加価値向上)
値上げで得た利益を何に使うのか、具体的に伝えます。
良い例:
- 「国産食材へのグレードアップ」
- 「サービス向上のための人材育成」
- 「店内設備の改善」
要素3:お客様への感謝
日頃のご愛顧への感謝と、今後への期待を伝えます。
良い例:
- 「日頃のご愛顧に心より感謝申し上げます」
- 「今後もより良いサービスを提供してまいります」
- 「引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます」
実際に使える告知文テンプレート2種類
テンプレート1:店内ポスター版
価格改定のお知らせ
いつも当店をご利用いただき、誠にありがとうございます。
この度、食材価格の高騰および、より良い食材を使用してお客様に美味しいお食事を提供するため、令和〇年〇月〇日より、一部メニューの価格を改定させていただくこととなりました。
【主な変更内容】
- カツ丼:850円 → 920円
- 生姜焼き定食:880円 → 920円
なお、お客様により一層ご満足いただけるよう、この度以下の改善を行いました。
- お米を新潟県魚沼産コシヒカリに変更
- 鶏肉を鳥取県産大山どりに変更
- 野菜を愛知県産朝採れ野菜に変更
今後ともより一層のサービス向上に努めてまいりますので、何卒ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
〇〇食堂 店主
テンプレート2:Web・SNS版
【価格改定のお知らせ】
いつもご愛顧いただきありがとうございます🙇
この度、食材価格の高騰により、〇月〇日より一部メニューの価格を改定させていただきます。
📍主な変更
・カツ丼 850円→920円
・生姜焼き定食 880円→920円
✨同時に品質もグレードアップ!
・新潟県魚沼産コシヒカリ使用
・鳥取県産大山どり使用
・愛知県産朝採れ野菜使用
より美味しく、より良い食材でお迎えいたします。
今後ともよろしくお願いいたします😊
#〇〇食堂 #価格改定 #品質向上 #地産地消
複数チャネルで「見逃し」を防ぐ告知戦略
値上げ告知は、最低でも4チャネル以上で行いましょう。
お客様によって情報接点が異なるため、複数の方法で告知することで、見逃しを最小限に抑えられます。
必須チャネル(最低限実施すべき)
- 店内ポスター(A3サイズ以上、目立つ場所に複数箇所)
- 各テーブルの卓上POP
- ホームページのトップページ
- スタッフによる口頭説明(会計時)
推奨チャネル(できれば実施)
- Instagram・Facebook・X(Twitter)などのSNS
- LINE公式アカウント・メールマガジン
- Googleビジネスプロフィールの投稿機能
- メニューブックへの告知シール貼付
- 店頭看板・のぼり
チャネル別の役割:
| チャネル | 主な対象客 | 役割 |
|---|---|---|
| 店内ポスター | 全来店客 | 基本の告知・詳細説明 |
| 卓上POP | 全来店客 | 食事中の再確認 |
| 口頭説明 | 会計時の客 | 直接の納得感醸成 |
| SNS | フォロワー・若年層 | 拡散・認知拡大 |
| LINE/メルマガ | 登録済み常連客 | 確実な情報伝達 |
ステップ5:値上げ実施後3ヶ月のフォローアップ戦略
飲食店の値上げ実施後の3ヶ月間が、成否を決める最重要期間です。
この期間の対応次第で、客離れを最小限に抑え、粗利益率を確実に改善できるかどうかが決まります。
❌ よくある失敗例
「値上げ後のフォローなしで常連客が激減」
ある飲食店では、値上げ実施後に特別なフォローアップを行いませんでした。常連客への感謝も伝えず、数値のモニタリングもなし。その結果、値上げ後2ヶ月で常連客の30%が来店しなくなり、売上は値上げ前を下回ってしまいました。気づいた時には、すでに客離れが進行していました。
教訓:値上げ後の最初の3ヶ月間は、常連客へのケアと数値モニタリングが必須です。
最初の3ヶ月が最重要期間
値上げ後の最初の3ヶ月間は、以下の変化が起こります:
- 第1ヶ月:お客様が新価格に慣れる期間。一時的な客数減少が起こりやすい
- 第2ヶ月:常連客の定着率が明確になる期間。離れた客と残った客が判明
- 第3ヶ月:新価格が定着し、数値が安定する期間。成否の判断時期
この3ヶ月間に適切な対応をすることで、客離れを最小限に抑えられます。
常連客への4つの特別ケア施策

値上げの影響を最も受けるのは、週1回以上来店する常連客です。
月4回来店していた常連客にとって、1回50円の値上げは月200円、年間2,400円の負担増です。この方々への特別なケアが、客離れ防止の鍵となります。
施策1:ポイント5%還元
値上げ後3ヶ月間限定で、常連客にポイント還元を実施します。
例:
- 920円の定食 → 46ポイント還元(5%)
- 500ポイントで500円券と交換
施策2:ロイヤルティクーポン
値上げ前から定期的に来店している常連客限定のクーポンを発行します。
例:
- 「いつもありがとうございます!次回ご来店時50円割引」
- 「常連様限定!ドリンク1杯無料」
施策3:口頭での感謝
値上げ後も来店してくださる常連客には、会計時に必ず感謝の言葉を伝えます。
例:
「価格改定後も変わらずご来店いただき、本当にありがとうございます。より美味しいお食事を提供できるよう努力してまいります」
施策4:小さなサービス(50〜100円相当)
値上げ後の最初の1ヶ月間、常連客に小さなサービスを提供します。
例:
- デザートの小鉢サービス
- コーヒーまたはお茶のサービス
- 小鉢1品追加
週次モニタリング必須項目

値上げ後の3ヶ月間は、週単位で以下の数値を必ずチェックします。
モニタリング項目
- 客数(前年同週比)
- 客単価(値上げ前との比較)
- 売上高(前年同週比)
- 粗利益率(目標達成度)
- 営業利益率(目標達成度)
- メニュー別注文数(値上げメニューの推移)
記録用フォーマット例
| 項目 | 値上げ前 (週平均) | 第1週 | 第2週 | 第3週 | 第4週 |
|---|---|---|---|---|---|
| 客数 | 400人 | 380人 | 370人 | 385人 | 390人 |
| 客単価 | 850円 | 920円 | 920円 | 915円 | 920円 |
| 売上高 | 340,000円 | 349,600円 | 340,400円 | 352,275円 | 358,800円 |
| 粗利益率 | 60% | 64% | 64% | 63.5% | 64% |

関連記事:
なお、日々の現金管理については、
→ 飲食店の現金管理|レジが合わない原因と3つの箱で解決する方法
も併せてご参照ください。
警告ライン:いつリカバリー策を発動すべきか
以下の状況になった場合、早急にリカバリー策を発動する必要があります。
要注意ライン(様子見)
- 客数が5〜10%減少
- 値上げメニューの注文数が20%以上減少
- 売上が横ばいまたは微減
緊急ライン(即座にリカバリー策実施)
- 客数が10%以上減少
- 売上が5%以上減少
- 値上げメニューの注文数が30%以上減少
- 常連客(週1回以上来店)が明らかに減っている
成功判断基準
値上げ後3ヶ月時点で、以下の基準を満たせば成功と判断できます。
成功の基準
- 客数:±5%以内(大幅減少していない)
- 客単価:+7〜10%(値上げ幅に応じて適正)
- 売上:+3〜5%以上
- 粗利益率:目標値に到達(例:60%→65%)
- 粗利益額:+5〜10%以上
- 営業利益率:目標値に到達または改善
緊急リカバリープラン4つ
警告ラインを超えた場合、以下のリカバリー策を即座に実施します。
リカバリー策1:期間限定キャンペーン
例:
- 「今月末まで!全品50円引きキャンペーン」
- 「平日ランチタイム限定 30円割引」
リカバリー策2:バリューセット投入
例:
- 「得々セット:定食+ドリンク+デザート = 1,000円」
- 「ランチセット:通常1,200円 → セット価格1,050円」
リカバリー策3:低価格メニュー追加
例:
- 「ミニ丼セット 650円(小盛りご飯+味噌汁)」
- 「ライトランチ 700円(定食の小食版)」
リカバリー策4:直接フィードバック収集
お客様の声を直接聞き、問題点を把握します。
例:
- アンケート用紙を各テーブルに設置
- 常連客に直接ヒアリング
- SNSでアンケート実施
値上げと併用すべきコスト削減策
前編で解説した通り、大幅な粗利益率改善が必要な場合は、「値上げ+原価削減」のハイブリッド戦略が有効です。
ここでは、値上げと並行して実施すべきコスト削減策を具体的に解説します。
❌ よくある失敗例
「過度なコスト削減で品質低下」
ある飲食店では、値上げと同時に大幅なコスト削減を実施しました。国産肉を外国産に全面切り替え、野菜も冷凍品を増量。その結果、味が明らかに落ち、値上げ前から来ていた常連客が「値段は上がったのに味が落ちた」と離れていきました。値上げとコスト削減の両方で失敗してしまったのです。
教訓:コスト削減は、品質を維持できる範囲で実施することが重要です。
食材原価削減の具体策

策1:仕入れ先の見直し
複数の仕入れ先から相見積もりを取り、最適な仕入れ先を選定します。
具体的手順:
- 現在の仕入れ品目と単価をリスト化
- 3社以上の業者から見積もり取得
- 品質を維持しながら10〜15%のコスト削減を目指す
- 配送頻度や最小ロットも考慮して総合判断
策2:食材ロスの削減
廃棄ロスを減らすことで、原価率を2〜5%改善できる可能性があります。
具体策:
- 棚卸の徹底:週1回の在庫確認で使用期限切れを防ぐ
- FIFO(先入れ先出し)の徹底:古い食材から使用するルール化
- 適正在庫の設定:発注量を見直し、過剰在庫を削減
- 端材活用メニュー:余った食材を使った日替わりメニュー開発
策3:メニュー最適化
原価率が高く売れないメニューを削除し、原価率が適正で人気のあるメニューに集中します。
具体策:
- ABC分析のCランクメニューを削除または見直し
- 共通食材で作れるメニューに絞り込み、食材種類を削減
- 注文数の少ないメニュー(月10食未満など)を整理
策4:不定貫食材の活用
重量が一定でない食材(不定貫)を活用することで、仕入れコストを削減できます。
例:
- 鮭の切り身を定貫(80g固定)から不定貫に変更
- 豚ロース肉をブロック買いし、店内でカット
やってはいけない3つの原価削減
- 極端な品質低下:低グレード品の全面切り替えなど、明らかに味が落ちる変更
- 原価率だけでの判断:粗利益額を無視した原価率偏重の判断
- 過度な従業員への圧力:「廃棄ゼロ」などの非現実的な目標設定

関連記事:
原価と人件費の総合的な管理については、
→ 「飲食店の『FL比率管理』で利益率を5%改善する実践法|夫婦経営が知るべき原価と人件費の最適バランス」
も併せてご覧ください。
人件費の適正化
策1:シフト管理の最適化
時間帯別の客数データに基づき、適正な人員配置を行います。
具体策:
- 時間帯別客数を分析し、ピーク時と閑散時を明確化
- 閑散時のスタッフ削減(例:14〜17時は1名減らす)
- ピーク時の短時間バイト活用(例:11〜14時のみ勤務)
策2:業務効率化
オペレーションを見直し、少ない人数で回せる仕組みを作ります。
具体策:
- 仕込み工程の見直し(まとめて仕込む、下処理済み食材活用)
- メニューの簡素化(調理工程が複雑なメニューを整理)
- 券売機導入によるホール業務削減
- 配膳ロボット導入検討(初期投資と効果を試算)
策3:セルフサービスの導入とROI計算
お客様にご協力いただくことで、人件費を削減できます。
また、人員削減効果だけでなく、お客様にとってわかりやすく便利なレベルで仕上げられたセルフサービス化は、店員を呼ばないとサービスを受けられなかった状況より好まれることもあります。
具体策:
- 水・お茶セルフサービス
- 食器返却セルフ(返却口設置)
- 注文タブレット導入
ROI(投資対効果)試算例:券売機導入
券売機50万円、ランチタイムのホールスタッフ1名削減(時給1,200円×4時間×25日=月12万円削減)→約4ヶ月で回収
光熱費の削減

策1:LED照明への切り替え
初期投資は必要ですが、長い目で見ると電気代を大幅削減できます。
効果試算例:
蛍光灯30本をLED化(工事費込み15万円)→電気代月5,000円削減→2年半で回収、以降は毎年6万円のコスト削減
策2:ゼロ円でできる運用改善
設備投資なしで今すぐできる光熱費削減策です。
光熱費削減の基本は「マメな節約」です。
具体策:
- 空調温度の適正化(夏28℃、冬20℃)
- エアコンフィルター月1回清掃(効率10%改善)
- 厨房機器の予熱時間短縮
- 冷蔵庫・冷凍庫の詰め込みすぎ解消(冷気循環改善)
- 不要な照明などの消灯徹底
策3:電力契約プランの見直し
電力自由化により、より安い電力会社への切り替えが可能です。
地域の大手電力会社以外の電力会社も広く調査しましょう。
具体策:
- 電力比較サイトで複数社を比較
- 飲食店向けプランの有無を確認
- 切り替えで月3,000〜5,000円削減が目安
やってはいけない3つの光熱費削減
- 顧客快適性の犠牲:極端な空調制限で店内が不快に
- 従業員の安全犠牲:厨房の換気削減など安全を脅かす施策
- 老朽設備の無理な使用継続:修理・買い替えを先送りして電気代増加

関連記事:
光熱費を含む固定費全体の最適化については、以下の記事も併せてご参照ください。
→ 飲食店の損益分岐点を下げる!|家賃・人件費・光熱費-固定費削減の実践テクニック
よくある質問(Q&A)
Q1: 値上げ幅は何%までなら許容されますか?
A: 一般的には10%以内が目安です。
850円→920円(約8%)や900円→1,000円(約11%)程度であれば、適切な告知と付加価値向上により、客離れを最小限に抑えられます。15%を超える大幅値上げの場合は、段階的実施(2回に分ける)を検討しましょう。
Q2: 全メニューを一度に値上げすべきですか?
A: いいえ。全メニューを一度に値上げするのはおすすめしません。
ABC分析のA・Bランク(粗利益高の上位75〜95%)を優先的に値上げし、Cランクや低価格メニューは据え置くことで、価格に敏感な顧客の受け皿を用意できます。全メニュー一律値上げは避けましょう。
Q3: 値上げ後、客数はどれくらい減りますか?
A: 適切な準備と告知を行えば、客数減少は5%以内に抑えられます。
一方、客単価は値上げ幅に応じて7〜10%向上するため、売上全体では3〜5%増が見込めます。ただし、準備不足や告知方法の誤りがあると、客数が15〜20%減少することもあります。
Q4: 値上げと同時にクーポンやポイント還元をすると意味がないのでは?
A: 全顧客対象の大幅割引は避けるべきですが、常連客への感謝施策として「3ヶ月限定5%ポイント還元」などは有効です。
値上げで粗利益率が5%改善する場合、一部を還元しても十分な利益改善が実現できます。重要なのは「期間限定」「特定顧客向け」という条件設定です。
Q5: 値上げ実施のタイミングはいつが良いですか?
A: 飲食店の場合、月初(1日または2日)が最適です。
月途中での値上げは混乱を招きます。また、繁忙期(忘年会・新年会シーズンなど)は避け、比較的落ち着いた時期を選ぶと良いでしょう。新メニュー投入や店舗改装のタイミングに合わせるのも効果的です。
まとめ|値上げ成功の5ステップ

ここまで【前編】【後編】と2回にわたり、飲食店の値上げを成功させるための具体的な方法を5ステップで解説してきました。
5ステップの総括
【前編】準備と戦略
- ステップ1:データに基づいた値上げ幅の決定
目標粗利益率からの逆算、客離れを防ぐ目安10%、ハイブリッド戦略 - ステップ2:値上げするメニューの戦略的選定
ABC分析、価格構成の最適化、商品構成グラフでズレ解消
【後編】実行とフォローアップ
- ステップ3:値上げの納得感を高める付加価値向上策
4つの方向性、見える化テクニック、お得感の演出 - ステップ4:客離れを防ぐ値上げ告知の最適タイミングと方法
1ヶ月前告知、30日間スケジュール、3つの必須要素、複数チャネル展開 - ステップ5:値上げ実施後3ヶ月のフォローアップ戦略
最初の3ヶ月が重要、常連客ケア、週次モニタリング、緊急リカバリー
2025年の値上げ環境を再確認
帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食料品値上げは累計2万609品目に達し、2024年実績を64.6%上回りました。(※1)
調味料6,221品目、酒類・飲料4,901品目など、飲食店の仕入れに直結する多くの品目で値上げが続いています。
値上げ要因も「原材料高」96.1%、「物流費」78.6%、「人件費」50.3%と複合化しており、もはや一時的な現象ではなく「構造的なコスト増」への対応が求められる時代になっています。
適切な方法で値上げを実行すれば、お客様の理解を得ながら粗利益率を改善できる環境は整っているのです。
※1 出典: 帝国データバンク|「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2025年12月/2026年
経営判断の重要性
値上げは「やるか・やらないか」ではなく、「いつ・どのように実施するか」の問題です。
原価率が上昇し、営業利益率が低下している状況で値上げを先延ばしにすれば、いずれ経営が立ち行かなくなります。
大切なのは、本記事で解説した5ステップに従い、計画的に値上げを実施することです。
- データに基づいた戦略立案
- 付加価値の向上
- 丁寧な告知
- 徹底したフォローアップ
これらを着実に実行すれば、客離れを最小限に抑えながら、持続可能な収益構造を実現できます。

関連記事:
経営の壁にぶつかっている感覚をお持ちの方は、以下の記事も併せてお読みください。
→ 飲食店開業3年目の壁を越える!10年続く店になるための経営改善5ステップ
値上げ成功後の6ヶ月後のあなたのお店
本記事の5ステップを着実に実行すれば、6ヶ月後のあなたの店はこのように変われるかもしれません。
- 粗利益率が60%→65%に改善し、月間粗利益額が約15万円増加 (月商300万円の店舗の場合)
- 客数は値上げ前の95%を維持しながら、売上は105%に向上
- 常連客との関係がより強固になり、口コミ・紹介が増加
- 経営に余裕が生まれ、新メニュー開発や設備投資が可能に
- 持続可能な収益構造が確立し、将来への不安が軽減
値上げ戦略の立案や実行でお困りの飲食店経営者の方へ
この記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
でも、読み終わった今もこんな不安を感じていませんか?
- 「理屈はわかったけど、自分の店で実際にどう計算すればいいのか…」
- 「ABC分析や粗利益率の計算を、一人でやる自信がない」
- 「値上げ後のフォローアップを、本当にちゃんとできるだろうか」
そんな不安を抱えているのは、あなただけではありません。
多くの飲食店経営者の方が、「やり方はわかったけど、自分の店のデータで実際にやるのは難しい」と感じています。特に日々の営業で忙しい中、エクセルで数字を整理したり、シミュレーションを何パターンも試したりする時間を作るのは、本当に大変です。
そんな経営者の身近な相談相手として、税理士の先生は頼もしい味方です。
ただ、税理士の先生の専門領域は「税務・会計」であり、「メニューごとの粗利益分析」や 「値上げの実行戦略」といった経営実務は、必ずしも得意分野とは限りません。
試算表は受け取っても「それをどう経営判断に活かすか」は、多くの場合結局あなた一人で考えなければなりません。そこで、当社では税理士の先生から受け取る試算表や既にお店にあるデータなどをベースに、「数字を経営判断に活かす」お手伝いをしています。
当社は愛知・名古屋を中心に、年商3,000万円〜1億円の小規模飲食店や夫婦経営飲食店を対象にした経営支援を行っており、税理士の先生とは役割を分担しながら、各々の専門領域を活かして、お店の収益改善をサポートしています。

関連記事:
税理士から受け取る試算表の効果的な活用方法については、
→ 夫婦経営の飲食店|経営が変わる!税理士に聞くべき5つの質問
で詳しく解説しています。
当社が提供するサービス
税理士から受け取る試算表やお店で取れるデータなどを元に、以下のサービスを提供しています。
粗利益率・原価率の分析
試算表から粗利益率・原価率を算出し、業界平均との比較や改善余地を分析します。
メニュー別ABC分析
メニュー別の売上・原価データから、粗利益高ベースのABC分析を実施し、各メニューの利益貢献度や値上げするメニュー・しないメニューなど明確化します。
値上げシミュレーション
値上げ幅ごとの売上・粗利益率・営業利益率の変化をシミュレーションし、最適な値上げ戦略を立案します。
分配率コントロールによる経費管理
粗利益高を基準に、労働分配率・設備分配率・販促分配率・管理費分配率を管理し、赤字を防ぐ仕組みを構築します。
初回無料相談のご案内
初回相談は無料です。
以下のようなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
- 自店の粗利益率を正確に分析したい
- ABC分析でメニューをランク分けしたい
- 適切な値上げ幅をシミュレーションしたい
- 値上げ後のフォローアップ方法を知りたい
- コスト削減策を具体的に検討したい
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持続可能な飲食店経営のために、まずは現状を「見える化」することから始めましょう。